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第一講 漢字恐怖症。

 「漢字で詩を作っています。」というと、多くの方が「よくそんなに漢字を知っていますね」といって驚かれます。現代の日本人は一種の漢字恐怖症になっている人が多いようです。しかし一方では若者の外国語選択が、英語の次はドイツ語でもフランス語でもなく中国語という時代になってしまいました。北京や上海には沢山の日本人留学生がいます。勉強の目的は殆どが中国語をマスターしたいからです。日本のメーカーが生産拠点を大幅に中国へシフトした今日、就職の条件として中国語を覚えておくことは大事でしょう。しかしこの事実は若者が漢字を覚えることをそれほど問題にしていない証拠です。中国語はいうまでもなく漢字だけですから、漢字恐怖症では中国語選択はできません。

そもそも日本人をこれほど漢字恐怖症にしたのは、明治以降政府の文教政策が漢字離れを目指して来たからです。漢字はもともと表意文字ですから、意に従って数が何千何万とあります。「これを覚えるためにエネルギーを費やし、他の必要教科に充分な時間が割けない。西欧社会はアルファベットしか覚える必要がないから、数学や物理化学といった他の学科に充分な時間が割ける。東洋文明が西洋文明に破れた原因は漢字にある」と明治の為政者が考えたのも無理はありません。初代の文部卿となった森有禮は英語を国語にしようと真剣に考えていた大臣でした。森は強烈な西欧崇拝者でしたが、ついに暴漢に襲われて非業の死をとげます。漢字全廃はそう簡単にはいきません。それをもう一度真剣に考えたのが、第二次大戦後の国語審議会でした。ここでは「漢字はいずれ全廃する。それまでは漢字の使用を1850字に制限する」という政策をとったのです。

 しかし1990年代にワープロが普及すると、漢字を制限することの意味は急速に弱まりました。覚えなくても機械が代わりに覚えていてくれます。もしワープロやパソコンの発明がが先行していたら、漢字制限などという発想は起きなかったかも知れません。人間という動物は妙なもので、現在は漢字を多く知っていることを競い合う漢字検定などという検定試験まで出現しました。文化の側面からいえば漢字を如何に使えるかが大切なのであって、沢山知っているからどうというものではありません。

 驚くべきことは、漢字しかない中国でも将来漢字を全廃する方針があったのです。パソコンが普及した今日、その実現は霞んでしまいました。今まで全廃に成功したのは韓国ですが、そのために自国の歴史書を読めなくなった損失は大きいといわれています。一度廃止すると二度と戻ってこないのが文化です。NHKの番組「漢詩鑑賞」を見る人が多いのですが、便利になればなるほど伝統文化へのノスタルジーがふくれあがるように思えます。

 中国には漢字しかないからクロスワードパズルも無論漢字です。中国本土は簡体字を使っていますが、台湾や香港は今でも繁体字です。そこでクロスワードパズルをお土産に買ってくるのが一時流行していました。そのうちに今度は日本製の漢字クロスワードパズルが出現しました。しかしこれは暇つぶしに過ぎません。同じ暇つぶしなら漢字で詩を作る方が創造性があり作品が残ります。それに中国人と詩の交歓ができます。私たちの父や祖父の時代は多くの文人や学者、そして政治家や経済人もそうしていたのです。それが出来たら、こんな面白いことはありません。この際ぜひ手掛けてみようではありませんか。

 漢字については参考書がいろいろあります。後に説明して行きます。