漢詩詞同人誌17年7月号　文化交流漢詩詞結社葛飾吟社

七月號

詩

　　　　　王如平先生賜予我茶葉　　　　　　　　　千葉県　中山逍雀
　　敲詩執筆太平恩，萬里厚情到我門。渡海芳香醒午夢，眞心友誼識温敦。
　　芳香郁郁歓無限，友誼綿綿道自尊。陋屋檐頭春又去，與妻煮茶小桃源。

　　　　　　　　　扇　　　　　　　　　　　　　千葉県　中山逍雀
　　　　酬和中国廣東無為齋主先生

　　 　　　　　一　原　玉　　　　　　　　　　　　中國廣東　無為齋主
　　炎涼世態且從容，納吐乾坤我自雄。但隨氣候能舒摺，因存清骨傲胸中。

　　 　　　　　二　 　　　　　　　　　　　　　　　逍　雀
　　画楼繊指淡粧容，酷暑涼風一世雄。天漢涼風梧葉落，遺抛竹扇草堂中。

　　　 　　　　三　　　　　 　　　　　　　　　　　無為齋主
　　画楼繊指淡粧容，酷暑涼風一世雄。天漢如流梧葉落，遺抛竹扇草堂中。

　　　　　謝過中山逍雀先生賜和，又是一意境也。又和：
　　美女江山兩從容，輕搖指點亦稱雄。絹團夜伴西施夢，諸葛鵝毛定蜀中。

　　　　　　　四　詠圖画扇風　　　　　　　　　逍　雀
　　美女江山兩従容，涼風断続繞芳叢。指呼三径別天地，遮断人寰路不通。


　　　　　龍　孫　　　　　　　　　　　　　　　千葉県　中山逍雀
　　龍孫壊砌現簾前，日日匆匆欲上天。昨夕被誰□散幹，今朝倒毀短籬邉。
　　（注）□＝足＋易（ti1）；蹴飛ばす。這箇竹笋是我的事

　　　　　祝賀葛飾吟社梨雲創刊五十号　　　　　千葉県　田　旭翠
　　鴎鷺自言豈欲名，怡顔闘句集群英。耽吟執筆裁詩久，歳月江湖刻石盟。
　　葛飾新風知夙志，梨雲旧雨展真情。縦横意気聊違俗，却是天工大雅声。

　　　　　初夏偶吟　　　　　　　　　　　　　　千葉県　高橋香雪　
　　海浜匆匆景換更，林径緑陰歩歩軽。請看一帯花世界，可憐藍色夢中精。

　　回顧離印尼前夜歩蘇軾『□耳』韻　　　　千葉県　今田莵庵
　　　　　　　　　　　　　　　□＝イ＋膽−月
　　霹靂収威涼気開，驕陽忽射峰雲嵬。迎宵行商哀声喚，載食押車打鼓来。
　　愁心更迷桑乾憾，令書已発我吾回。女僕涕泗情難離，入魂晩餐如嚼灰。
　　
　（蘇軾原詩『□耳』）
　　霹靂収威暮雨開，独憑闌檻倚崔嵬。垂天雌霓雲端下，決意雄海海上来。
　　野老已歌豊歳語，除書欲放逐臣回。残年飽飯東坡老，一壑能専万事灰。

　　　日本対北朝鮮無観衆足球比賽挙行于曼谷　　千葉県　今田莵庵
　　足球比賽対朝鮮，為禦擾騒除席筵。曼谷曇天含熱気，看台無影已恢然。
　　何知渡海飛来客，誰想越楼振掉拳。四面楚歌須応援，忽貫終点両蹤全。
　　（註）足球＝succer。比賽＝game 。曼谷＝Bangkok。
　　 　　　看台＝stand。終点＝goal。

　　　新世界交響曲　　　　　　　　　　　　千葉県　今田莵庵
　　徳伏夏克(Dovorak)晩年被招発波希米亜(Bohemia)去美国于彼地作曲「新世界交響曲」是非写現地，写移民郷愁也。

　　管弦整整到堂巓，牧笛依依流客氈。楽老呼応三顧禮，巨船雄渡百年前。
　　主題旋律非醒異，伝統歌声却誘淵。巨匠起情新世界，移民聴曲帰心燃。

　　　魚偏字　　　　　　　　　　　　　　　　千葉県　今田莵庵
漢人驚日本辞典有幾多魚扁字。他道倭人須獲海魚因此漢人剰余不多。

　　酢飯加�C握作鮨，鮨今世界択鮮怡。垂簾餐店溲茶喫，喫器連書漁字奇。
　　不見鰆鯖何処泳，不知鮪鰊奈辺馳。漢人今誹倭人網，魏志遠伝頼海姿。

　　　　　父母之盟　　　　　　　　　　　　　　千葉県　今田莵庵
　　賜村岡功学兄"追悼村岡真理"之書巻，念一遍忍住感涙而賦詩。

　　碩学労書令我驚，愛嬢死別已呑声。莫忘呈語尊夫婦，誓約霊前長寿盟。

　　　　漓江舟行　　　　　　　　　　　　　　　千葉県　清水蕗山
　　煙覆江村峰接空，仙寰絶景極天工。相驚水墨天然画，遊子客船細雨中。

　　　　七夕有題　　　　　　　　　　　　　　千葉県　陳　興
　　　　　重逢忽覺老，兩鬢照星輝。憶昔鵲橋上，回頭心欲摧。

　　　　　年少爲詩，秋山忠彌先生見我而思李賀，固有題　　千葉県　陳　興
　　□眉巨鼻此詩人，疑是中唐李賀身。詩使何曽是詩鬼，原於天上事詩神。
　　　□＝广+龍

　　　　　漸漸聴杜鵑啼聲　　　　　　　　　　神奈川県　荻原艸禾
　　散策村郊古木横，誰言啼血望郷情。何邊杜鵑薫風裏，欹耳微聞朗朗聲。

　　　　"清里"写生旅行　　　　　　　　　　　神奈川県　荻原艸禾
　　芳郊雨余坐青茵，十里田園草色�堰B不厭群山隠宿靄，筆端描出偽耶眞。

　　　　　遊"小田原城"　　　 　　　　　　　　神奈川県　��橋子沖
　　　　　"小田原城"下作
　　白堊三層度恵風，睥睨眼下画図中。東南海上遊船迫，西北霊峰遥蒼穹。

　　　　　"小田原城"小史
　　戦国"北條"城主誇，"豊臣"支配短期嗟。"徳川"治世家臣任，　現代百年康乂嘉。

　　　　　　城址公園
　　樹林石塁市塵遮, 広大公園市民誇。　老幼戯鳩池鯉躍, 写生摂影思無邪。

　　　　　　花菖蒲
　　濠内数千多彩争, 嬋娟浩漾午風軽。写生男女昂不語, 散策回遊情感盈。

　　　　　　尼僧賞花
　　尼僧観賞花菖蒲, 携帯電波交信愉。送信書翰思往事, 現今社会感懐紆。

　　　　　　紫陽花
　　風運幽香梅雨迦, 紅葩紫萼万枝花。　花園緩歩人不絶, 玉笛微流嬌亦加。

　　　　　　偶感　二首　　　　　　　　　　　埼玉県　芋川冬扇
　　経雨東皇去，流雲変幻多。幽情尋不得，半夜妻対歌。

　　逝水佳人涙，自恣心計粗。風風蓬髪乱，片月為吾徒。

　　　　　　梅雨書懐二首　　　　　　　　　埼玉県　芋川冬扇
　　寂寂人空老，陰陰鎖柴扉。密思留不得，閑砌雨霏霏。

　　狂風疎雨後，雲低陽無寧。白日邯鄲夢，風鈴側耳聴。

　　　　　　緑陰読書　　　　　　　　　　　　埼玉県　芋川冬扇
　　連夜繙書巻，吟愁転醒魂。他郷弧月下，読去向妻論。

　　　　　　聞　鵑　　　　　　　　　　　　　　　埼玉県　芋川冬扇
　　芳醪誰料得，半老酔難支。杜宇声悽切，心頭醒又疑。

　　　　　　無　題　　　　　　　　　　　　　　東京都　金　中
　　恬然長久笑生窩，醒後羞紅□面額。宿舎女生群訝怪；夢中藝語叫喚"哥哥"。
　　　　　　　　　　　　　□＝湯+火

　　　　　　無　題　　　　　　　　　　　　　　東京都　金　中
　　送君長□立交頭，沈睡皇都漸夢收。拂曉蔚藍天幕上，一彎纖月掛城樓。
　　　　□＝足+包

　　　　　傳聞雲南省之大茶樹 　　　　　東京都　田村星舟
　　深山遼繞鳥聲和，老樹欣然起緑波。緬想千年大茶樹，那村茗汁味如何。

　　　　　水槽之魚 　　　　　　　　　　　　東京都　田村星舟　
　　葉葉揺窗驟雨餘，病廊一榻讀詩書。應看銀燭煌煌照，却疾水槽観賞魚。

　　　　　春日偶成 　　　　　　　　　　　　東京都　田村星舟
　　行行春邑路，花影足遊観。美禄欣櫻雪，閑窗愛牡丹。
　　只看朝靄動，忽得鳥禽摶。一水漾漾碧，清風天地安。

　　　　　寄"梨雲５０號"　　　　　　　　　東京都　大沼春風
　　梨雲同志巻，任性萬花開。案句留佳客，交歓作渡盃。
　　詩筵何事好，蓮社興悠哉。友到和琴瑟，音書自遠來。

　　　　　小石川植物園二首　　　　　　　東京都　大沼春風
　　白日尋舊跡，憩石忘塵煩。競美何由得，狭空植物園。
　（注）謂在都市植物園寛廣，可是比山野，是非常狭的空間。

　　薬園炎暑下，樹樹緑濛濛。萎萎人亦草，蘇生白雨功。
　（注）薬草的功績也不如到自然的力量

　　　　　夜　猫　　　　　　　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　夜猫屋頂坐無眠，暗欲高飛捉玉蟾。空想連綿到拂曉，鷄鳴破梦曙光鮮。

　　　　　緑陰數蟻軍　　　　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　老境偏増追想多，整天獨數蟻軍過。緑陰猶有風拂面，半梦枕肱迎睡魔。

　　　　　莫忘塞班島悲劇　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　"大和撫子"抱嬌嬰，濤洗懸崖投赤誠。戰陣訓詞輕性命，皇軍忠義紊人情。
　　虜囚恥辱化凶器，狷者狂槍穿血腥。　猶有姑娘留戀處，可憐被彈墜滄溟。
　　　(注) 大和撫子：貞淑的日本婦人的別名

漢俳

　　　　　漢俳・五首　　　　　　　　　　　　埼玉県　荻原魚骨
　　　　　八月十四日
　　八月十四日。最後空爆襲星川，六十年前事。

　　　　　八月十五日
　　八月十五日。花甲吾国耳不順，再待次還暦。

　　　　　六月二十三日
　　六二三残酷，国内唯一地上戦。祷祝勿重演。

　　　　　六月二十七日
　　遥拝五分鐘。慰霊之旅未完了，問宰相軽重。

　　　　　五・四，六・四
　　歴史為吾鏡，"五四""六四"走馬灯。万緑生新風。


　　　　　沖　縄　　　　　　　　　　　　　　　埼玉県　荻原魚骨
　　"捨石"変"要石"。沖縄続演唱悲歌，"平和之礎"祈。

　　　　　傍観者不清　　　　　　　　　　　　埼玉県　荻原魚骨
　　"暴君"或"先生"。"夜郎"或者"紙老虎"，傍観也不清。

　　　　　烏　鴉　　　　　　　　　　　　　　　埼玉県　荻原魚骨
　　鳥獣画風刺。烏鴉人智競知能，嘴粗淘汰細。

　　　　　友好之海　　　　　　　　　　　　　埼玉県　荻原魚骨
　　一水蕩波紋。両国民衆欲大同，共享聚宝盆。

　　　　"吉州"風雲　　　　　　　　　　　　埼玉県　荻原魚骨
　　籠城一百天。"吉州"風雲又告急，六心不在焉。

　　　　"福翁"長嘆息　　　　　　　　　　　埼玉県　荻原魚骨
　　維新已成昔。"会社"不熟排"競争"，"福翁"長嘆息。

　　　　　日露戦争一百年　　　　　　　　　埼玉県　荻原魚骨
　　浅思五二七。吾国百歳甚急怱，欲牛歩做師。

　　　　　一生感動　　　　　　　　　　　　　埼玉県　荻原魚骨
　　未知空是色，一生感動亦青春。"千年杉"続伸。

　　　　　嘗啄　　　　　　　　　　　　　　　　埼玉県　荻原魚骨
　　鶯歌燕舞春。師啄生○共破殻，祝花開大輪。

　　　　　畢業生　　　　　　　　　　　　　　埼玉県　荻原魚骨
　　終於嘗破殻，雛児欲将邁出門。心勇抖精神。

　　　　　神　譚　　　　　　　　　　　　　　　埼玉県　荻原魚骨
　　神譚崩潰劇，"我等時代"此終結。青黄尚不接。

　　　　　回家郷　　　　　　　　　　　　　　埼玉県　荻原魚骨
　　郷音満列車。万緑笑迎吾帰省，忽誦"信濃歌"。

　　　　　故　郷　　　　　　　　　　　　　　　埼玉県　荻原魚骨
　　残雪"浅間山"，白銀燦燦"北阿峰"。狭院春色濃。

　　　　　漢俳　五首　　　　　　　　　　　　埼玉県　芋川冬扇
　　軽紗席未温。読文品詩樽味足，午睡楽尤存。

　　遊子空相憶。電飾明滅夜色冥，小雨水光青。

　　繙書独店頭。店主店員風弄影，幽情巻中求。

　　他郷昼尚昏。葵影穿雲帰去夢，断続乱蛙喧。

　　酌酒胸中独。暗淡故山残月時，雲迷路多岐。

　　繙書独点頭。燕語芭蕉風弄影，幽情巻中求。

　　　　　梅　子　　　　　　　　　　　　　　　東京都　田村星舟
　　樹齢垂五十。青青梅子向日鮮，葉葉雨餘天。

　　　　　遊凾谷　　　　　　　　　　　　　　東京都　田村星舟
　　朱夏遊凾谷。郷友一夜共傾杯，耽談亦快哉。

　　　　　"麥星"　　　　　　　　　　　　　　東京都　田村星舟
　　麥子収穫季。今夕蕭蕭暗一庭，孤仰牧夫星。
　　（注）麥星；牛飼い座の一等星（アークトウルス）

　　　　　和歌漢譯二首　　　　　　　　　　東京都　石塚梨雲
　　三元気融融。沈沈曉雪舞微風，人心瑞気籠。　
　　新しき年の始めの初春の今日降る雪のいや重け吉事（大伴家持）

　　洗石泉水清。蕨菜擧頭處處萌，春来緑欲明。
　　石ばしる垂水の上のさ蕨の萌え出づる春になりにけるかも（志貴皇子）

　　　　　漢俳・一　首　　　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　僅僅人忙碌，洗滌整理還修補。羨慕蝴蝶舞。
　　片付けにせはしき者は人ばかり羨み仰ぐ蝴蝶の舞ふを

　　　　　漢俳・一　首　　　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　荊妻腦出血。兩天不覓句無功，祈祷神佛切。

　　　　　漢俳・医療之怪八首　　　　　　千葉県　今田莵庵
　　医療極細分，心肝腸毎負薬群。已忘身単員。

　　大学殖教授，内臓一片成一科。細分是宿痾。

　　投薬蛮勇揮。不虞体質各人違。天為有痩肥。

　　医師不通脈，身体髪膚不触過。唯探検査魔。

　　医師傾投薬，病人又同欲薬丸。薬業自春歓。

　　医師往年仁，今日求財却忘倫。薬店更助隣。

　　手術助積儲，健脾称病求切除。医道済民虚。

　　保険援西医，許容西医漢薬施。漢医蒙百差。

新短詩

１　曄歌

　　　　　三　首　　　　　　　　　　　　　　千葉県　高橋香雪
　　首夏時。一輛電車，撮影師。

　　釣糸風。岸頭来往，功談同。

　　麦秋天。郷下鉄道，旅装前。

　　　　　十　首 　　　　　　　　　　　東京都　田村星舟
　　桃李香。一枝欲折，細腰娘。

　　餞徂春。一觴一詠，一閑人。

　　柳枝垂。雨添新漲，小緑池。

　　鳥聲頻。暖風晴日，踏青人。

　　棘蒼蒼。薔薇一輪，著雨香。

　　雨糸糸。潛魚不躍，小緑池。

　　雨餘風。麥含秀色．燕怱怱。

　　雨脚紛。鳴雷殷殷。隔山聞。

　　漫然遊。拭汗樹下，有鳴鳩。

　　愛花人。紅紫牽牛，湛露銀。

　　　　　三　首　　　　　　　　　　　　　東京都　石塚梨雲
　　燕語頻。薫風清韻，緑無塵。

　　物化尊。万緑如潮，気自純。

　　競吟魂，一堂圓坐，放詩神。



２　偲　歌

　　　　　三　首　　　　　　　　　　　　　　千葉県　秋山北魚
　　歓留綉被，暁眠有羞。春生胡蝶，試遠游。

　　空閨寞寞，夜漏溜溜。竹梢微響，枕邊幽。

　　孤衾双枕，涙痕不乾。窗月斜映，夜更寒。

　　　　　四　首　　　　　　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　三杯老酒，一椀新茶。醉前醒後，口干加。

　　一天連水，萬緑如潮。山湖青翠，映虹橋。

　　麺少大盤，禁止吸烟。做作晩餐，能用錢。

　　蝉蛻滿庭，秋声傷感。皆有朝生，夕死散。

　　　　　紫陽花　　　　　　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　紫陽花上，玉蕊星羅。仰天人怕，涸銀河。
　　短歌体：紫陽花の玉蕊星羅たるをみて仰ぎて怕る銀河の渇（か）るを

３　減字瀛歌

　　　　　　漢和兩詠　七首　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　紫陽花，同根玉蕊競才華。尽日風搖映晩霞。
　　短歌体：紫陽花は根は同じなるも才華競り風に揺らいで夕焼けに映ゆ

　　聽霖雨。幽齋横臥看詩書，難降睡魔將振羽。
　　短歌体：長雨に暗き書斎に詩を読めば降しがたきは羽ばたく睡魔

　　醉如泥，驚聽子夜杜鵑啼。無眠客枕想荊妻。
　　酔いどれて驚き聽けばほととぎす　眠りなき夜に妻をぞ想う

　　聽霖雨，簷底戚戚濕燕語。無聊一日讀詞曲。
　　短歌体：長雨に軒端のつばめ声湿り　無聊一日　詞曲を読めり

　　有和歌，不須漢語詠山河。古人還作玉詩多。
　　短歌体：和歌ありて漢語なくも山河詠む古人に玉詩また多かりき

　　有和歌，當吟千代八千代，戰禍生前流血河。
　　短歌体：歌あらば生まれる前の戦争も千代に八千代に詠いつぐべし

　　無歯牙，專心致志飲流霞。滿目櫻雲飛雪佳。
　　短歌体：歯牙なくば一心不乱に飲む流霞　眼にはよき哉桜の雪飛ぶ


　　　　　　和歌漢譯　二首　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇　　　　　　　　
　　人不知，相思戀戀似雲馳。只有吾生知我痴。
　　人知れぬ思ひのみこそわびしけれ　わが嘆きをば我のみぞ知る（紀貫之）

　　君閑歩，山櫻花底烟濃處。隱顯芳姿堪戀慕。
　　山ざくら霞のまよりほのかにも見てし人こそ恋しかりけれ（紀貫之）


　　　　　　聽鵑語　十七首　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　宿山家，醉聽蜀魄客愁加。但看明月印窗紗。

　　憶家國，獨聽蜀魄客中酌。村酒無功愁緒多。

　　嘆離隔，蜀魂破梦夜悲歌。愁人客枕對嫦娥。

　　憶久別，聽取蜀魂啼血切。客窗更夜月將缺。

　　有形骸，山聽蜀魄破襟懷。風掠窗紗月影篩。

　　不如歸? 破梦蜀魂良夜悲。客窗空曠月光飛。

　　鳴半宵，蜀魂破梦一声高。無眠客枕恨難消。

　　鳴不休，蜀魂啼月半宵愁。反側思君宿客舟。

　　鳴梦邊，蜀魂啼月半窗天。夜光如水浸愁眠。

　　老歸村，幼童看作異郷人。杜鵑鳴處梦無痕。

　　梦家郷，蜀魂振羽碧空翔。老叟醒處月荒涼。

　　杜鵑鳴，人傷梦醒斷腸声。愁仰客窗盈月明。

　　西又東，蜀魄悲啼細雨中。客心愁飲酒無功。

　　蜀魂啼，破梦斷腸思遠妻。客窗月照思淒淒。

　　憶故居，愁聽蜀魄醒華胥。傾觴再試梦蝶駆。

　　一声馳，蜀魄高鳴破梦時。客窗皎皎月光滋。

　　蜀魂哭，不如歸去老京都。邊愁難斷醉顔朱。

詞

　　　　　寄調陽関曲　　絲綢之路　　　　　　　千葉県　田　旭翠
　　　　　　　陽関古跡
　　汽車行尽日西垂，戈壁寥寥路不知。漢時覇業現荒塁，低唱陽関沙地涯。

　　　　　　　交河故城
　　故城高塁幾栄枯，燬土炎炎曠日虞。緑州代謝二千歳。満目何堪一草無。

　　　　　　　高昌故城
　　火焔山裏断香煙，此地昌昌回教天。更尋説法振錫跡，相続頽牆黄土甎。
　　（注）高昌故城：在吐魯番市東方40km阿斯塔那村，此処唐玄奘三蔵留錫故地。

　　　　　　　南疆鉄道夜行列車
　　断烟荒漠接天遙，鉄路延延夜寂寥。車灯独掲懼回首，窓外相随光影揺。
　　（注）　南疆鉄道：自烏魯木斉至喀什１９９９年全線開通。

　　　　　　　庫　車
　却欣城市市声譁，碧眼飛声暖信加。白楊嫩葉報春緑，紅柳柔枝愉似花。

　　　　　　　羅什三蔵銅像
　　大乗翻訳厚於慈，妙典巍巍四海煕。敢嗟佛法絶無跡，安坐郷園心許之。
　　（注）　羅什三蔵：鳩摩羅什（３４４−４１３）史称仏教三大翻訳家之一，亀茲（庫車人）後秦弘始三年（４０１）至長安訳出経書３２部８００余巻，訳出著名経巻《妙法蓮華経》・《阿弥陀経》中国三論宗之祖也。
　　　　　　銅像：庫車西方克孜爾石窟前庭新添"鳩摩羅什三蔵"銅像

　　　　　　一七令・緑蔭閑吟　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　　　　　　　　　　　　　　樹，
　　　　　　　　　　　　交枝，滿目，
　　　　　 　　　　　聳穹蒼，鮮葉緑。
　　　　　　　　　安枕詩書，等閑世路，
　　　　　 　　笑佯地上仙，頻養烟霞痼。
　　　　　　暫探清韵擬唐，忽得佳吟温故。
　　　　　　　　　五絶諷詠　歌酬杜甫。
　　　　　　　　　　 　　　倣　謳
　　　　　　　 　　　　　　王　律
　　　　　　　　　　　 　　維，七


　　　　　十六字令・九　首　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　鴉，啼月清輝對晩霞。山湖暮，傷感忘歸家。

　　蝶，看破紅塵獨道別。蒼穹舞，振翅醉風斜。

　　猫，夜化妖魔蕩細腰。清眸耀，誘我醉春宵。

　　犀，沐浴蓮池避暑愉。常穿鎧，疑是隱氷肌。

　　魚，水底凌寒巧守愚。潜蓮影，盛夏納涼愉。

　　猿，叫月冬宵破暮寒。思郷土，孤客夜無眠。

　　鶯，悦耳花間百囀声。人當競，高唱縱風情。

　　鷄，子夜声高破梦啼。驚巫女，敗興坐雲躋。

　　烏，乱舞寒天遶月弧。山將暮，人仰太白浮。

言論筆譚

　　　　　　　　　　　　　　　　吟社の窗

◆ ７月１２日（火）劉徳有氏を中心にした中日友好協会の面々を迎えて、日中文化交流協会主催のパーテイーが開かれました。日中文化交流協会（会長辻井喬）は民間団体ですが、中日友好協会との交流の窓口として、1956年中島健蔵、千田是也、井上靖、團伊玖磨らによって設立されて以来、長年に亘り公的な文化交流を手掛けてきた団体です。漢俳学会成立大会も、この団体が日本側の企画を担当して来ました。今回の催しを機会に同協会から入会の勧誘を受けましたが、吟社としての入会は見送り、個人の入会を取り次ぎさせて頂きました。

その結果、中山、今田、小畑、石倉、石塚、門馬、東の諸氏の参加申込みがありました。中国との文化交流に興味をお持ちの方は、今後何時でも入会できます。年会費は12,000円で毎月機関紙『日中文化交流』が送付されます。

◆ 吉野まやさんが復旦大学の留学期間を終了して、７月１１日帰国されました。留学の経験を活かした今後のご活躍を祈りたいと思います。中国との文化交流に役立つ仕事を考えているとのことですが、吟社例会へも出来る限りご参加下さることを期待しています。

◆ 斎川游子理事のご病状はその後も変わらないようです。入院先は要町病院から上板橋の若木原病院に移られた旨ご家族からご連絡がありました。字を読まれることもなくなり、残念ながら詩作再起は難しいようです。理事を引き続きお願いすることも事実上無理と思われますので、近々後継者を決めなくてはならないと思われます。自薦他薦などあればご意見をお聞かせください。

◆ 拙稿「詩俳同牀」が(50)に達しました。毀誉褒貶があり、斎川さんは詩と俳句は同床異夢だといわれました。しかし中国で漢俳学会が生まれた今日、両国詩人にとってこのシリーズは多少の参考に資するかも知れません。『梨雲』第２巻から執筆を始めたため、巻数に比べて１編遅れて来ましたが、今回５１号に２編を掲載して追いつかせることにしました。今後は巻数にシンクロして行く所存です。よろしくご指導をお願いします。（莵）

漢詩詞同人誌七月号完　文化交流漢詩詞結社葛飾吟社

漢詩詩集《梨雲》八月号

�T詩

　　　　　山寺参拝四首　　　　　　　　　　千葉県　中山逍雀
　　身安寧然而心不寧，怎様如果做，能不能得到安寧。

　　　　　　五言絶句
　　緑暗苔痕湿，紫散昼自幽。登磴禅境寂，流汗此中遊。

　　　　　　七言絶句
　　伽藍石磴昼猶昏，燕子出巣繞寺門。擦汗相融参拝客，空堂跪坐話田園。

　　　　　　五言律詩
　　積翠浮世外，唱経古禅房。伏登危石磴，仰解老人装。
　　只有甘吾分，無由赴此堂。一陣風籟起，吹面暫愁忘。

　　　　　　七言律詩
　　山中無夏只泉聲，遮断紅塵心未軽。石径盤廻白衣湿，香烟籠罩紫雲生。
　　偏爲合掌千福祷，尚有心平萬骨誠。般若心経誦浪浪，朱泥法印結佛情。

　　　　　箸　　　　　　　　　　　　　　　千葉県　中山逍雀
　　朝朝暮暮好因縁，砕骨撕肉共苦辛。雖有君折即我死，竹竹木木勝於銀。

　　　　　井底之蛙　　　　　　　　　　　千葉県　中山逍雀
　　天青水�K占清涼，春夏秋冬報太陽。我與青蛙何事異，多年満意僅輝光。

　　　　小花三題　　　　　　　　　　　　千葉県　中山逍雀
　　　　　　石榴（ザクロ）
　　窗前幾点落花春，雨里紅紅半是塵。緑葉枝頭有鮮果，粒粒嬰兒逼天眞。

　　　　　　梔子（クチナシ）
　　籬邊軟蕾晩春時，緑葉遮陽花信遅。遂有秋天割硬果，橙黄染上貴人衣。

　　　　　　罌粟（ケシ）
　　浮世自古愛花多，一片愁心誘妖魔。可恐果実産阿片，輕輕素萼勝傾國。

　　　　　　罌粟（ケシ）
　　薄薄玉蕊属西施，淡白微紅絶世姿。可識隠瞞青史裏，妖葩傾國勝楊妃。
　　（注）楊妃；楊貴妃

　　　　　留別思家郷之君　　　　　　　千葉県　中山逍雀
　　臨別還柳情若何，君説勿惑臙脂舌。傳聞郷里斜斜雪，我愛青竹請不折。

　　　　　我養花猫　　　　　　　　　　　千葉県　中山逍雀
　　花猫吃飽一何安，天下太平似去官。只恐偽装猾老鼠，貧家米櫃保粮難。
　　　（注）花猫；三毛猫

　　　　　当世即時　　　　　　　　　　　千葉県　中山逍雀
　　大衆歓閙侮永基，老獪秘密弄時宜。官人痼疾人間事，順逆同根説向誰。

　　　　　喜君安穏　　　　　　　　　　　千葉県　中山逍雀
　　今年７月、千葉県台風襲撃有大的受害，亦前天和昨天有了大的地震。

　　台風巻地壊茅軒，暴雨洪郷毀畝園。只愿東都安穏信，今看君稿謝乾坤。

　　　　　賜甜瓜　　　　　　　　　　　千葉県　中山逍雀
　　遠来鮮果玉爲名，豊富網包自粛清。却想親朋故郷事，酸甜香味少年情。

　　　　　戦後六十年　二首　　　　　　千葉県　田　旭翠
　　　　　　　其　一
　　追風蔓草旧塵纏，榮辱未知又一年。以食為天人既老，古碑無字聴蜩蝉。
　　（注）古碑無字　李群玉　黄陵廟詩"古碑無字草□□"

　　　　　　　其　二
　　劫後平和銭有則，自誇経済眼無人。世榮風定花謝未？却懐往事守一真。
　　（注）風定花謝未　王安石詩一節"風定花猶落、鳥鳴山更幽。

　　　　"隅田川"花炮大会　　　　　　千葉県　高橋香雪
　　黄昏盛夏夕陽収，燦爛天空星火流。坐愛少女粧楚楚，燈籠映水納涼舟。

　　　　　北京日中短詩詞研討会　　千葉県　高橋香雪
　　千里客程集一堂，詩詞会得意揚揚。吟情更有中秋月，兩地揮毫宴席傍。

　　　　　夏日舟行　　　　　　　　　　　千葉県　高橋香雪
　　青山倒影水涓涓，一笛輕航一暢然。衫子楚楚涼笑語，遙天残照彩雲箋。

　　　　　"伊万里焼"　　　　　　　　　　千葉県　今田莵庵
　　　"伊万里"名偏欧州，明窯衰后縱時流。往年舞踏怡肌埋，宮室陶磁比是優。
　　　今日"登窯"留舊構，山間制作解烟休。牡丹圖盤渾身技，起灼工師継前修。
　　　　（注）明窯；謂景徳鎮之明窯登窯；窯業窯之名称。伊万里；窯業産地名称
　　　　　　　　　継前修；継承古之賢人的業績

　　　　　曽四人一起瞻了花炮　　　　　　　千葉県　今田莵庵
　　僚友曽担提短波，三人已病薬匳痾。回想楼上瞻烽火，今祷回康斬妖魔。
　　　　　　（注）提短；証券（船貨提短；船荷証券）

　　　　"宇咲冬男"俳句碑建立于徳國一邑　　千葉県　今田莵庵
　　俳諧"繋句"作幽叢，"巻藝"人間驚碧瞳。徳國一碑今刻石，薔薇結実藻思通。
　　　　　　（注）俳句碑之俳句；「薔薇已結実　佳人生生處處皆　花園続開街」
　　　　　　　　　繋句；俳諧中以数人完成一詩的藝法。
　　　　　　　　　巻藝；俳諧中以数人完成一巻的藝法。

　　　　　回想天橋立　　　　　　　　　　　千葉県　今田莵庵
　　京童随父曾游濱，海岬載松客思新。今想股間天下景，風災倒樹泣吾神。

　　　　　一周年忌日　　　　　　　　　　　千葉県　清水蕗山
　　佛壇木主隔黄泉，一誦三香萬感牽。只在君聲我心里，傷心欲癒読遺篇。
　　　（注）位牌；仏教　木主；儒教

　　　　　亀戸天神藤花　　　　　　　　　　千葉県　清水蕗山
　　藤花万朶紛，四月粋人群。亦有琴糸調，紫房勝彩雲。

　　　　　出　山　　　　　　　　　　　　　　　千葉県　陳　興
　　出山還入山，一路覺孤單。莫戀舊山色，新山蒼一擔。

　　　　　客裡吟　　　　　　　　　　　　　　千葉県　陳　興
　　冷□熱面作宵夜，電腦未開疑有郵。夜半獨醒殘醉意，長天雲淡正悠悠。

　　　　　憐月曲　　　　　　　　　　　　　　千葉県　陳　興
　　月没我夢了，星稀昨日還。今宵思不尽，憐月惜遥看。

　　　　　浪　子　　　　　　　　　　　　　　千葉県　陳　興
　　　　　　一
　　東家有浪子，霹靂舞絶技。要傳紅領巾，搖頭笑無意。

　　　　　　二
　　小村疑爆竹，白雲声少渺。誰槍對親叔，親叔門後足包。

　　　　　　三
　　黄昏燈未點，有人光頭歸。脱帽母認出，滿屋生光輝。

　　　　　　四
　　海上誰斷魂，海將國界分。捉得渡海月，月色早已昏。

　　　　　　五
　　死刑已判成，悪行報上登。白髪思�K髪，老涙長縱横。

　　　　　夏　雨　二首　　　　　　　　埼玉県　芋川冬扇
　　風師起風籟，忽怒一声雷。洗暑新涼裏，滂沱雲未開。

　　一陣多生意，兩心把杯觴。酌酒蘇万物，滴滴月蒼蒼。

　　　　　消夏雑詩　　　　　　　　　　埼玉県　芋川冬扇
　　満天明似鏡，松下有苔青。絶無人間熱，風鈴満石亭。

　　　　　夏日海村　　　　　　　　　　埼玉県　芋川冬扇
　　潮風船任水，断続響涛声。影墜漁歌起，釣竿鴎不驚。

　　　　　七夕星祭　五首　　　　　　神奈川県　��橋子沖
　　　　　　一　七夕偶感　
　　二星耿耿降田園,　機織農耕人類援。隔天相思千古興,　銀河欲滴萬朱門。

　　　　　　二　七夕偶感　　
　　牽牛織女度星橋,　古代皇宮慰寂寥。佳節伝承営乞巧,　人間今日楽清宵。

　　　　　　三　七夕懐古　
　　繁星閃閃夜清涼,　皎皎銀河天蓋浪。浮世詩箋庭院飾, 双星節句故山香。

　　　　　　四　幼児七夕
　　黄瓜茄子映星光, 彩色便箋写愿望。更欲水流除悪鬼,　双親幼子寿偏長。

　　　　　　五　平塚市七夕
　　十万市民嬉悦漂,　年々多彩喜徘徊。歌謡音曲織姫踊,　戦禍何堪手中杯。

　　　　　徳國浪漫大街写生旅行　　　　　神奈川県　荻原艸禾
　　　　　一　海徳堡・写生冒炎天
　　俯瞰市街即異郷，炎威焦土正驕陽。端無措毫遁林下，來往行人莫笑狂。

　　　　　二　羅敦堡・堡塁公園
　　高名城堡此相尋，同好同遊坐緑陰。只在叢樹風籟韵，林園運筆自無心。

　　　　　三　麦圃丘　同遊落下画帳平流
　　一聲聲響小橋頭，野水波微画帳浮。恰好小学三兩健，竿頭得釣更無求。

　　　　　四　新天鵞城　於吊橋望城館
　　白壁城塁野水遙，遙看尖塔對危橋。橋邊遊客來還語，語紙居心景可描。

　　　　　五　密登瓦爾得
　　雲峰山麓翠嵐中，村屋装窗草點紅。賞画愛花如見笑，郷人旅客意相通。

　　　　　漸漸聴杜鵑啼聲　　　　　　　　神奈川県　荻原艸禾
　　散策村郊古木横，誰言啼血望郷情。何邊杜鵑薫風裏，欹耳微聞朗朗聲。

　　　　"清里"写生旅行　　　　　　　　　神奈川県　荻原艸禾
　　芳郊雨余坐青茵，十里田園草色�堰B不厭群山隠宿靄，筆端描出偽耶眞。

　　　　　無　題　　　　　　　　　　　　　　東京都　金　中
　　觀○春五彩歌，無邊歡喜透雙蛾。白毛衣套棕絨□，揮漿紅舟盪碧波。
　　　　　○＝人偏に尓。□＝衣偏に庫

　　　　　抒情小夜曲　　　　　　　　　　東京都　金　中
　　清輝窗下盈盈女，遥寄深情深几許！柔如細柳醉東風，濃于芳草吸春雨。
　　欲将此意對伊傳，奈何難吐爲言語。唯做孜孜一紡工，織我相思千万縷。
　　協奏融圓吉他声，合作清凉小夜曲。愿此歌声?彼心，再索皓月弥天宇！

　　　　　心　扉　　　　　　　　　　　　　　東京都　金　中
　　歩入人生大舞台，心扉万象互傾開。悠悠碧海当行探，爍爍繁星驗欲摘。
　　縱世時逢青壮勇，揚詩天賦玉華才。輝煌多少将榮造？上帝君知我未来！

　　　　　扶桑温泉戲咏　　　　　　　　　東京都　金　中
　　氤■潤泡暖形肢，依旧酸辛枉費時。人道温泉療百病，奈何我病系相思。
　　　　　□■；インウン；芳香が籠もる。（■＝氣-米+膃-月）

　　　　　盛暑徘徊　　　　　　　　　　　東京都　田村星舟　
　　電母撕天翔雀群，蜂聲鳴鳴草薫薫。偏嘆城市無梅雨，只仰晴天聳夏雲。
　　歩歩歩移千里夢，時時時進七星文。縱横風起輕羅扇，獨領清風奈世氛。

　　　　　夏季祭祀　　　　　　　　　　　東京都　田村星舟
　　七月祭禧炎暑臨，習風文化洗塵心。御輿回返劃街綫，男女喚聲響社森。

　　　　　酷　熱　　　　　　　　　　　　　東京都　田村星舟
　　老槐只待白雲秋，連日驕陽炙似油。不識涼風在何處，心中困憊汗珠流。

　　　　　尋花寺社　　　　　　　　　　　東京都　池田耕堂
　　　　　　南蔵院（葛飾区東水元　藤花・石楠花）
　　曾因災厄失諸堂,"向島"霊場移水郷。藤架蘿垂添雅致，石楠花発競明粧。
　　開運鐘舎隠繁朶，被縛地蔵薫線香。往古田疇変華屋，今猶桜樹続長塘。
　　　（注）向島；墨田区向島業平橋近辺

　　　　　　磯山神社（鹿沼市磯町　紫陽花）
　　紫花参道転清鮮，夫婦大杉連九天。僻地今猶多野趣，霊山幽邃絶塵縁。

　　　　　　古峯神社（鹿沼市草久　躑躅）
　　渓流遡上至高原，千古祠堂儼此存。精緻刻彫殊有趣，大型"狗面"自驚魂。
　　芳梅藤架已舗地，躑躅菖蒲正満園。寺院風儀尚如旧，"講中"参詣遍乾坤。
　　　（注）狗面；天狗のお面。講中；信者の団体

　　　　　　妙法寺（杉並区堀ノ内・花菖蒲・紫陽花）
　　梅雨晴間"堀内"尋，幾多名刹緑陰深。楼門雄麗驚彫飾,"祖院"荘厳聞革音。
　　梔子香漂乍和気，紫陽花遍転娯心。雖無憂悒訪清境，佳景探游宜暢襟。

　　　　　　高幡不動（日野市高幡　紫陽花）
　　花音招誘訪"高幡"，乞巧紅絲参道翻。荘重古堂冠仏閣，妍華層塔対楼門。
　　紫陽花笑山中麗，緑樹陰濃径昏。千古霊場常勝景，"大師"巡拝爽心魂。

　　　　　"大賀蓮"　　　　　　　　　　東京都　大沼春風
　　家家人未醒，暁色映池邊。勿恐塵世煩，開花古代蓮。
　　　（注）大賀蓮；古代蓮

　　　　　"新田橋"　　　　　　　　　　東京都　大沼春風
　　赤橋誰得似，窶面嗅潮香。掌識相逢處，憑欄仰太陽。
　　　（注）新田橋；在江東区小赤橋

　　　　　我無功譽　　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　乞骨歸山探雅韵，裁詩連日忍嚴冬。人間間道通茅舎，院落落梅堆雪中。
　　野叟風懷隣鄙事，權官綺語讚天功。回回回憶半生過，翼翼翼成無碌終。

　　　　　詩　迷　　　　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　莫笑老殘依短杖，追随妻子數徘徊。坐思思慮無功力，偏愛愛人披詠懷。
　　朗朗搖唇吟歳月，悠悠順性尽鴻才。春夏秋冬游勝境，東西南北有詩材。

　　　　　開秋別君　　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　回回回憶似簷鈴，片片片言舒戀情。別後初知風颯颯，良宵空仰月澄澄。

　　　　　酒　　　　　　　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　梦傾醇酒興佳哉，妄想荒唐兩養才。幸對詩魔化倩女，搖腰蓮歩抱琴来。

短　詩

　　　　　　曄歌

　　　　　五　首　　　　　　　　　　　千葉県　中山逍雀
　　洗衣機。百事浮沈，糟糠妻。

　　細雨途。是否睡覚，老蝸牛。

　　嗅潮香。海邊漁家，夜長長。

　　故郷川。霓虹窗邊，驟雨喧。

　　海辺楼。二八柔肌，尚百憂。

　　　　　竹筍三首　　　　　　　　　　千葉県　高橋香雪
　　雨色昏。竹林無人，黙生孫。

　　雨聲侵。龍孫一夜，露変林。

　　訪君家。厨房一香，春意加。

　　　　　四　首　　　　　　　　　　　　千葉県　高橋香雪
　　上舞楼。納涼"盆踊"，散百憂。
注：舞楼；謂盂蘭盆舞的高台

　　地震時。電車不動，怒歸遅。

　　響輕車。紅白紫碧，牽牛花。

　　褥暑中。苦瓜妙菜，医薬功。

　　　　　一　首　　　　　　　　　　　東京都　石塚梨雲
　　一条泉。盛夏陶然，水娟娟。

　　　　　八　首　　　　　　　　　　　東京都　田村星舟
　　紫藤垂。清涼午榻，睡猫兒。

　　挿秧終。夕陽在水，掠面風。

　　青田廣。蛙鼓千般，賦詩難。

　　紅蓮静。蜂去花心，古池潯。

　　看花晨。魚動輕荷，啼鳥頻。

　　詩一篇。落花水面，明鏡天。

　　一籬涼。牽牛花綻，可憐粧。

　　誰投石。池上火雲，乱紛紛。

　　　　　四　首　　　　　　　　　　　東京都　門馬清明
　　渡頭舟。照舊繋留，薄霧稠。

　　草虫鳴。郊墟滋味，月光清。

　　医院庭。寥寥盛開，八重桜。

　　夜窗幽。晩餐囲坐，得好儔。

　　　　　浮舟夏釣　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　水中央。看過魚鱗，一味涼。

　　　　　新韵十一庚　十七首　　東京都　石倉鮟鱇
　　日西傾。松風十里，晩潮生。

　　遣閑情。柳陰繋艇，釣絲風。

　　釣艇輕。人無漁獲，遣吟情。

　　暮烟生。岸頭隔水，遠山横。

　　暮色生。孤島若螺，海面平。

　　短艇輕。垂釣乗濤，寄此生。

　　釣舸行。潮光縹緲，一身輕。

　　艪声鳴。納涼短艇，一詩成。

　　夏衣輕。納涼短艇，任潮風。

　　暮潮平。島影如螺，落日傾。

　　暮潮平。釣艇如滑，鴎不驚。

　　晩雲生。雷雨長風，波浪驚。

　　日西傾。塵外海風，沙又清。

　　返照明。海面浮光，心更清。

　　海風清。旅店閑酌，梦自平。

　　漁火明。水亭洗暑，響濤声。

　　遣吟情。暮雲靉靆，有餘清。

　　　坤歌

　　　　　五　首　　　　　　　　　　　千葉県　中山逍雀
　　我自由。在鳥籠鳥，守何奴。

　　恫紅唇。盗用公款，魁偉人。

　　青年期。唯一友人，電脳機。

　　百忙處。抛棄辛苦，后巷路。

　　放在上。仙遊出門，身高杖。


　　　　　　　　偲歌

　　　　　五　首　　　　　　　　　　　千葉県　中山逍雀
　　梅雨昼暗，同衾双枕。庭紫陽花，羞微粉。

　　只有君情，堅信不疑。優柔不断，歳月移。

　　親手培育，開得美麗。遺憾撒花，春桃李。

　　説象父親，不同好象。態度可疑，象画匠。

　　死活轟動，姐姐寿酒。相反君我，十天后。

　　　　　三　首　　　　　　　　　　　千葉県　秋山北魚
　　終宵酌酒，不能銷憂。夜窗密雨，灑積愁。

　　閨房酔臥，假夢通情。双飛庭院，蝶舞輕。

　　身耗弛帯，情遣若痴。秋怨歸雁，薄暮時。

　　　　　　瀛歌

　　　　　　五　首　　　　　　　　　　千葉県　中山逍雀
　　新緑稠。客舎石榴，簾上鉤。三年濁酒，六腑積憂。

　　家属禮。祝賀誕辰，也我在。很少蝋燭，很多氣餒。

　　亂雲間。手指那邊，五彩山。杖知往事，我懐塵寰。

　　禾黄青。栖止農具，紅蜻蜒。藕耕如夢，夫婦應寧。

　　七色美。彩虹小懸，孫撒水。共楽雅興，獨領天佩。

　　　　　　三　首　　　　　　　　　　千葉県　高橋香雪
　　花一輪。華麗舞台，"五弁椿"。深紅地毬，心未爲眞。
　　　　（注）公演明治座"五弁椿"

　　夕陽中。吊橋照影，小舟通。半霜閑歩，琵琶黄熟。

　　小池邊。奇岩珍石，對白蓮。樹下求涼，復問字旋。

　　　　　　　　減字瀛歌

　　　　　　寒蝉　二首　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　鳴尽力，寒蝉相等古希値。戀歌通夜不知疲。

　　寒蝉戀。試比人生古希天，声高吟對月嬋娟。

　　　　　　六　首　　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　化蝴蝶。乗風振翅飛春野，貪夢髑髏眠墓穴。

　　無功譽。人老茅斎仰太虚，空聽蛩語斷還續。

　　有詩魔，頻作酒豪論巧拙。妄言迷惑我輕薄。

　　窗月明。蜀魄數声驚客梦，孤眠半夜嘆飄零。

　　杜鵑声。半窗盈月皚皚耀，游子無眠客思生。

　　夏未深。薫風拂面閑白昼，樗散枕書眠緑陰。

　　　　　漢俳

　　　　　漢俳　三　首　　　　　　　　　千葉県　高橋香雪
　　　　　　瑞香（沈丁花）
　　魁春淡淡装。紅蕾雪花微月下，夜寒凍妙香。

　　　　　　茶花（椿）
　　薄命茶花女。髪飾風情白色柔，誰知郁落憂。

　　　　　　桜
　　芳姿故国花。漾漾櫻雲春四月，趺撞壊紅葩。

　　　　　静　濱　　　　　　　　　　　　千葉県　今田莵庵
　　開歳瞰静濱，発電風車獨動春，遙想海嘯瞋。

　　　　　衛星展望　　　　　　　　　　千葉県　今田莵庵
　　衛星瞠眼下。層雲山脈過鶴跨，斜暉洋上瀉。

　　　　　白　堤　　　　　　　　　　　　千葉県　今田莵庵
　　白堤放風箏。蕉翁魄今天上漂，追慕西施情。

　　　　　劉徳有先生催躾字書展于北京　　千葉県　今田莵庵
　　躾字燕京展。授矩幼年曾親勉，扶桑今已喘。
　　　（注）躾；此字没有漢字。是日本人創作即用為付与幼年規矩。
劉徳有先生認識其必要，開催「躾」一字書法展于北京。

　　　　　山西行　四　首　　　　　　　　埼玉県　荻原魚骨
　　先訪九龍壁。上天保佑考察団，旅途将順利。

　　無酒懸空寺，太白只刻壮観点。遊客点随便。

　　雲崗千五年。釈迦牟尼視栄枯，人間一瞬間。

　　只留一処天。天崖万丈蓋三方，介少杞憂閑。

　　　　　一　首　　　　　　　　　　　　東京都　石塚梨雲
　　無為碧天清。浮舟横臥仰星明，納涼心亦軽。

　　　　　火箭發射成功　　　　　　　東京都　田村星舟
　　牽牛花紺鮮。天文衛星貫昊天，萬民期待前。
　　　　　　　（注）国産ロケット「すざく」　　　

　　　　　七　夕　　　　　　　　　　　　東京都　田村星舟
　　天河已薄明。牽牛織女惆萬浪，相喚奈無情。

　　　　　石原都知事侮蔑法文算數法　　　東京都　石倉鮟鱇
　　嘲嗤法文數，越過十、如何君數? 用漢音算數。
　　フランスの数を笑ふも十（とう）越ゑて数へるすべなき大和の言葉

　　　　　客　愁　　　　　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　猿啼切歸志。月下愁絶絶句詩，吟斷斷腸思。

　　　　　納涼六首　　　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　緑陰涼味多，閑聽蝉語厭書史，野人交睡魔。

　　緑蔭避炎陽。風輕汗洗三伏熱，人耽一枕涼。

　　垂釣抱芳壺。湖上浮舟涼一味，傾盞笑三伏。

　　濱涯落日多。夕涼消夏風拂面，浮光波似羅。

　　夕陽沈碧瀾。樓上海風吹不斷，壺酒促甘眠。

　　蛩語引風涼。簷下白頭傾玉盞，明月入詩嚢。

　　　　　　　　添字漢俳

　　　　　　十四首　　　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　醉花底，得詩題。聳肩仰賞櫻雲起，放唱和鶯啼。

　　無齒牙，飲烟霞。佯仙吟句如風馬，聳肩發眼花。

　　無牙齒，有知識。老儒堪敬操難字，將吟裁律詩。

　　無牙齒，溺酒池。老殘傾盞消愁思，搖唇吟古詩。

　　眠靈坐，梦詩魔。蝶問梨園滿花朶，玉女送秋波。

　　浮画舸，渡天河。梦魂羽化出茅舎，對飲與嫦娥。

　　戀盈月，化痴蝶。乗風帶酒出塵界，振翅上天階。

　　蛩鳴夜，影侵階。帶酒芳醇人翫月，諷詠思無邪。

　　蛩語切，月影斜。明窗皎皎枕頭雪，旋旋秋梦蝶。

　　壺酒洗，醉魂迷。飄舞緑陰張羽翼，碧落趁虹霓。

　　揮禿筆，画酒旗。不用金錢醉靈液，玉盞試詩題。

　　無羽翼，似首級。天轉炎皇流血液，霞彩染潮汐。

　　含新意，排旧弊。才媛裁詩正無敵，含蓄佯無力。

　　風吹面，水映天。游覽山湖無用扇，浅酌坐樓船。

　　　　　消夏放吟　十五首　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　忘俗事，醉古詩。緑蔭讀書三夏致，風韵萬金値。

　　消炎夏，透齒牙。共試鉋氷講閑話，納涼臨水涯。

　　涼世界，舞梦蝶。湖上浮舟星滿夜，枕肱思無耶。

　　秋七月，酒三杯。湖上納涼星似雪，侑觴花展眉。

　　人臥月，梦化蝶。湖上乗風涼世界，振翅上天階。

　　炎熱散，醉翁眠。梦蝶湖上乗風軟，良宵向月圓。

　　炎雲去，晩風徐。浮舟湖水醉風趣，酒郷息老躯。

　　風籟起，雷鼓急。驚仰暗雲含雨意，怒帆如肚皮。

　　雲帶雨，人納涼。湖上浮舟醉風趣，天水受瓊觴。

　　避三伏，游五湖。浮舟夕暮醉一壺，水心彈二胡。

　　江天雨，艇上愚。悶悶思君無伴侶，垂綸未釣魚。

　　涼一味，酒三杯。湖上浮舟翠漣醉，游魂碧落飛。

　　涼似水，酒盈杯。湖上黄昏適一醉，白首喜無爲。

　　無炎暑，有詩書。緑蔭風涼似仙府，人讀忘世途。

　　忘塵事，醉宋詞。緑蔭讀書耽韵致，佯仙弄美辞。

　　　　　六　首　　　　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　拂面緑風吹。涼陰酒美朱脣醉，白首睡，赤烏飛。

　　湖上清涼境。拂面徐徐垂柳風，飛蝶夢，歸鳥声。

　　納涼湖上舟。看過魚鱗傾緑酒，交紅友，事清游。

　　夢蝶飄酒家。仙娥吟句賞風花，對華髪，吐春霞。

　　櫻雲映錦波。我有吟才交酒魔，惜春末，忘生活。

　　花底鼓喉舌。賞櫻吟句伴仙娥，調平仄，唱山歌。

（注）添字漢俳
　添字漢俳は、日本の俳句・短歌における字余りに想を得てわたしが考案した詩型です。

　漢俳は、五・七・五に作り、通常は二・三，二・二・三，二・三に区切って詠みます。これに対し、添字漢俳は、六・七・五あるいは五・七・六に作ります。ただし、字余りであることに韻律上の必然性を持たせるために、六字句は三字・三字に区切り（六字句折腰句）、三字の対仗にします。

   これに加え、第１句を六字とする場合（六・七・五）、第２句の七字は上二字・下五字に区切り、その下五字と第３句の五字が対仗になるように作ります。さらに、上二字は領字とし、第３句にもかかるように作るのがよいと思えます。
　また、第３句を六字とする場合（五・七・六）、第２句の七字は、上四字・下三字に区切り、第３句の上三字・下三字の対仗とともに、鼎仗（三句対）にするのがよいと思います。

　なお、添字漢俳の対仗は、詞曲のルールに従い平仄不拘でよいと思います。

　また、上記拙作は、平仄両用の押韻（六字句折腰句を含め４箇所・中華新韻による）を多用していますが、そうすることで詞よりも曲に近い響きを漢俳に導入することを試みています。

（鮟鱇記）

詞

　　　　　八聲甘州・茅屋閑居　　　　　千葉県　中山逍雀
　　應車雷轆轆未閑居，閉扉模先賢。擬竹窗筆硯，高楼観月，古殿繁絃。恣筆頭千古意，弦月半秋天。惟有喧囂巷，琴響如蝉。
　　緬想家郷田野，屈指年如水，應若駿奔。禍福人間事，多難向誰言。坐茅廬，澄神塞耳，閉眼聴，檐馬導桃源。�闢V地，比隣爲聚，對酌芳樽。

　　　　　浣溪沙・賛羅玉松先生中國名勝古跡吟　　千葉県　中山逍雀
　　　羅玉松先生的中國名勝古跡吟是八百名勝與萬餘厚情収到一巻的偉大著作。
　　春夏秋冬覓句酬，山川野谷異郷游。萬餘情熱意優優。
　　八百旅途嚢満満。寫花花麗拝祠稠。益陽雕几筆成邱。

　　　　　十六字令・五首　　　　　　　東京都　田村星舟
　　濱。清月涓涓海砂銀。"人魚"坐，不問偽耶眞。

　　羅。風拂芳衣水拍坡。千重恨，七夕霧烟河。

　　朱。恰恰催曙已啼烏。愁還在，天際月蛾孤。

　　羞。撫瞼清風古渡頭。相逢處，燿燿數螢流。

　　途。愉悦風翻新服裾。行吟好，恰恰鳥相呼。

　　　　　罵玉郎・飲　酒　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　老殘無用多閑假，頻抱酒壺佳，醉魂將越山高大。化晩鴉，飛彩霞，穿圖画。

　　　　　長相思・贈一詩　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　問酒家，可詩家。稱讚人如天上花，擬唐吟句佳。
　　飲流霞，似落霞。青眼朱顔艷語滑，侑觴情更加。

　　　　　長相思・吟懷老　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　結交多，受風多。空老官衙俸禄薄，辛勤歳月過。
　　交酒魔，和詩魔。我有吟懷佯守拙，山棲不報國。

　　　　　長相思・詩懷老　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　跨山河，渡星河。老骨詩懷無曲折，恬然禿筆呵。
　　試吟哦，自長歌。春賞櫻雲秋月娥，巧搖三寸舌。

　　　　　長相思・梦逢嫦娥　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　坐清宵，憶通宵，天上佳人千里遙。寒齋月色饒。
　　憶旧交，梦君交，眼底嫦娥伴酒肴。豐頬翠黛妖。

　　　　　長相思・客中暫醉　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　午風翻，酒旗翻，暫解征鞍流水邊。非無買酒錢。
　　心欲然，丹欲然，老板嘲嗤醉臉鮮。黄昏酒興寛。

　　　　　長相思・醉　梦　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　游醉郷，入睡郷。振翅乗風蝶梦翔，尋君点艷粧。
　　仙酒香，詩句香。唱和天人興自長，佳吟當擬唐。

　　　　　長相思・醉　梦　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇
　　憶旧邦，勝他邦。老骨頻頻游醉郷，醺醺入梦長。
　　振翅翔，任風翔。竟到天宮仙酒香，嫦娥点艷粧。

自由詩

　　　　草珊瑚（せんりょう）　　　　　　千葉県　中山逍雀
　　　　　松杉下，
　　　身高僅有三寸三。
　　　矮木影，細竹間。
　　　不識初陽燦，無憂凍雨寒。
　　　　　草珊瑚。
　　　豊豊小果，粒粒鮮朱。
　　　啄朝雀，掉暮烏。
　　　　　微雨如糸花落季。
　　　薫風換景水暖時。
　　　櫟樹香塵下，四四嫩芽幾百，嫩芽両三枝。
　　　　　春夏秋冬両三遷。
　　　身高已有三寸三。
　　　粒粒丹丹。

　　　　　　老夫之不安　　　　　　　　　　千葉県　中山逍雀
　　　　　　欺騙老人的住宅修復欺詐（2005年7月20日）
　　　老夫惑巧言，
　　　倒壊未得安。
　　　爲修繕費萬銭，
　　　爲欺詐失萬銭。
　　　目前黄泉，
　　　余生幾年。
　　　百痾不安，
　　　嚢無銭。
　　　老駝背，
　　　何処由。
　　　百痾老骨痩，
　　　病床医生手。
　　　遺留借款老躯枯，
　　　棄置不顧幾歳月，
　　　家屋無事保堅構。

ご挨拶
詩苑吟社

　この度、葛飾吟社のお仲間に加えて頂いた詩苑吟社と申します。私どもは漢詩詞の書法・吟詠・創作など、同好の集いです。
　JR新松戸駅の近くに平成17年４月に発足したばかりです。今後とも会員一同宜しくお願いを申し上げ、新規加入のご挨拶と致します。
　　　　　　　　　　　　　　　　詩苑吟社　代表　大村庸子　拝　


　　　　　想病床之友
　　永年風月興，新賦想君詩。緬憶病床裏，祈念療養慈。

　　　　　坤歌・一　首
　　頑固爺。喚即憎悪，鼎有茶。





　　　　　　　　吟社の窗

◆　齢のせいか、夏の暑さが年々激しくなるように感じる。その極暑の中、手術退院後の体力を労りつつ、些かバテながら日中短詩集『秋涼詩縁温暖集』の入力、翻訳、編集の作業を薦めた。収録した短詩は中方３３名、日方２１名、その中、楠野修氏（大阪高槻在住、日中友好漢詩協会会員）を除く２０名は葛飾吟社会員の次の諸氏で、作品は主に昨年末から現在に至る『梨雲』から独断で選ばせて貰った。独断というがそこには自ら一つの基準を設けた。それは中国側の日本短詩歌への傾斜に、何らかの意味で反応できる資質を有することである。８月１３日の東京月例会で会員諸兄のチェックとご承認を得る所存である。

◆　収録の２０名は小畑、大沼、山田、中山、今田、石倉、石塚、田村、池田、芋川、林、秋山、門馬、高橋香、高橋渉、荻原、宮本、萩原、清水、齋川の諸氏（敬称略）。この配列は姓の第一字の画数の少ない方からの順序で、康煕字典方式による。何故こんな配列を用いるかというと、日本人と中国人の作品がミックスされているため、単純にアイウエオ順やアルファベット順を使えないからである。仮にアルファベットを用いても、中国人は今田のことをIMADAとは読まない。中国式の発音（ピンイン）を用いてJINTIENで配列しても、日本人には殆ど無意味である。中国でよく用いられるのは年齢順だ。流石「長幼序あり」の文化で、これなら誰も文句はない。だが、日本では女性が本当の年齢を明かさないことがある。たったこんな些細なことでも両国の文化の調整は難しい。相手のことを考えないで国益だけを押しつけようとする外交が、上手くいかない筈である。

◆　しかし複合民族国家の中国は百戦錬磨、画数で並べる康煕字典方式がある。清朝の康煕帝は清国が最も成長発展した時代であり、その孫の乾隆帝時代には四庫文庫や円明圓といった世界最高の文化施設が完成する円熟期を迎える。清朝は満族であり、全く異なる言語集団が漢民族を統治をするために、統治手段の開発は一大課題だった。康煕字典方式の配列では、小畑、大沼、山田の三氏が、三画でトップに来る。その後中国側は四画で王さんが五人続く。こんな退屈な手作業の間にも歴史文化を感じつつ作業を進めた。

◆　この『秋涼詩縁温暖集』は、このあと諸般のステップを経て、９月２０日前後に完成を見る筈だ。今から見ると中国側各氏の発言には実に面白いものがある。何よりも日本の詩歌に学ぼうとする貪欲さがかいま見られる。日本の短詩人は、漢詩の勉強とともに日本詩歌の性格の掘り下げをやって、中国詩壇へのよいアドバイザーになる使命も帯びている。

◆　陳舜臣さんの『唐詩新選』文庫版が出ていたので買ってみた。この本が勝れているのは冬至から始まって一年の季節に従って書かれているため、日本の歳時記に似た役割を果たした読物でもあることだ。しかも詩詞の選択が学者じみていない。飽くまで作家詩人の目でロマンを追っているのがいい。たまたま「七夕」のところを見たら、先月『詩俳同牀』で採り上げた李賀の五律が載っていて、陳さんが最も好きな詩だとあり、わが意を得たりと思った。又「あとがき」に、『論語』の中の「君子、固（もと）より窮す」を採り上げて、陶淵明も杜甫もこれを「窮を固（かた）める」と読んでおり、漢字の配列はいろいろ読み方があって、そこに妙味があると書いている。確かにそうだろう。日本語読みをつけるのは罪作りだと思う。魯迅の若い友人の作家、郁達夫が八高時代、「漢文」の成績が最も悪く、すんでのことでそれが原因で落第する所まで行ったという。原文ならすらすらと読めるのに漢文読みが苦手だったらしい。罪な話、これに勝るものはあるまい。（莵）

2005-9/01

梨雲　９月号

詩

　　　　　甜　瓜　　　　　　　　　　　　　　　　千葉県　中山逍雀

　　遠来鮮果玉爲名，豊富網包自粛清。却想親朋故郷事，酸甜香味少年情。

　　　　　次韵三羊先生七絶陽臺　　　　　千葉県　中山逍雀

　　苦熱三旬壮意消，奔雷一雨土肥饒。雖言君家葡萄架，我有妻栽紅紫嬌。

　　原玉：
　　道是立秋暑未消，自家天地緑饒饒。葡萄葉密遮風日，護得海棠別様嬌。


　　　　"石州益田権現社"奉納秘技伝承成 　　千葉県　今田莵庵

　　山上祠頭払俗塵，一望千里到城濱。口銜興起悠久火，手握移燃重畳薪。
　　十二神刀振挙舞，無双秘技使驚人。曾嘆後継須難覓，今覚青年承不泯。
　　（注）石州益田権現社＝在島根県益田市。益田市元津和野藩外港。

　　　岳父村上弘雄十三回忌法要于"三田宝生院"　千葉県　今田莵庵

　　木魚粛粛誦経興，天蓋燦然金色澄。当代高僧如祖代，宝生院裡瑞氛凝。

　　　岳父村上弘雄翁忌后宴于"八芳園" 　　　千葉県　今田莵庵

　　眼下夏苑幽翠覃，酒肴添味壺中庵。好逑回首紅顔昔，亡翁旧題談笑参。


　　　　　暑日雑詩　　　　　　　　　　　千葉県　高橋香雪

　　池頭暑気萎垂楊，漾漾風情映野塘。氷旗飜處人不見，残蝉盡日更疎狂。


　　　　　晩夏二首　　　　　　　　　　　千葉県　田　旭翠

　　　　　　　其一　聴乱蝉

　　槐花花謝迎朝露，蓮葉葉涼送晩風。残夢醒来秋已動，蜩蝉乱噪夏将終。

　　　　　　　其二　槿花一日榮

　　露含金気飾銀簪，一日栄華暑不侵。暁色誰知銜落日，紅葩委地去來今。
　　　　（注）一日榮　白楽天詩　放言五首（其五）
　　　　　　　　　　　松樹千年終是朽，槿花一日自成榮。


　　　　　夏　夜　　　　　　　　　　　千葉県　清水蕗山

　　処暑愉煙火,　江辺夜気清。與君華麗宴,　足下覚虫鳴。

　　　　　佞武多祭（ねぶた祭り）　　　千葉県　清水蕗山

　　鼓笛谺山北国盆,　囃声裂闇充家門。跳人舞佞武多里,　勇者灯篭津軽魂。
　　　（注）跳人；はねと


　　　　　海外聞曾為我詩詞集《登山望云》作序的
　　　　　江蘇詩人童文祥先生病逝遥有此作　　　　千葉県　陳　興

　　江淮遠向蒼天鶴，夜望当為一片雲。灯下翻詩聊作序，案前擱筆却凝神。
　　滄波起落隠群島，明月去来遊各村。聞道櫻花開満路，春風吹尽不留痕。

　　　　　待　　客　　　　　　　　　　　　　千葉県　陳　興

　　異郷吾作客，待客故郷中。酒席應周到，人生幾度逢。

　　　　　窗外一□樹　　　　　　　　　　千葉県　陳　興

　　窗外一□樹，雪来枝上擁。冬時何失意，春到得葱蘢。
　　　　（注）□＝木果

　　　　　東京拉面　　　　　　　　　　　　千葉県　陳　興

　　紛乱駅前拉面家，自称風味属中華。淡然兩片豚焼肉,冷也一杯冰鎮茶。
　　可嘆卓文君未老，堪驚老字号猶佳。門開客至迎何熾,結帳当時分不差。


　　　　　離合對二首　　　　　　　　　　　神奈川県　萩原艸禾

　　　 紫微落花　　　　　　　　　　　秋夜吟

　　非糸花萬片，（緋）　　　　　　秋心夜色玲瓏寂，（愁）
　　豊色點芳埃。（艶）　　　　　　夭竹幽情重畳深。（笑）
　　郊樹浅深處，　　　　　　　　 不用燈光人可感，
　　紫微飛散堆。　　　　　 　　　西窗半酔聴虫吟。


　　　　　別墅賛歌　　　　　　　　　　　神奈川県　山田鈍耕

　　日光別墅瓦新家，眼下風光一望遐。占取歓迎和鳥獣，瀬音奏楽入窗紗。

　　　　"光徳牧場"　　　　　　　　　　神奈川県　山田鈍耕

　　牛馬悠悠遊草原，白樺林樹聴新蝉。愉看学徒徘徊久，驟雨一過脱世煩。

　　　　　傷　悼　　　　　　　　　　　　　神奈川県　山田鈍耕

　　酷暑早朝意外憂，友人守夜爲君留。台風時候出棺式，雷雨宛如涕泅流。

　　　　　哭入江正之　　　　　　　　　　神奈川県　山田鈍耕

　　早朝聞訃愴丹哀，闘病白頭気力充。多感誰憐師與友，忽然急逝感無窮。

　　　　　高松花火　　　　　　　　　　　神奈川県　山田鈍耕

　　花炮閃紅多彩華，涼風船上當仙槎。源平屋島戦場跡，今古栄枯水之涯。

　　　　　写生旅行　　　　　　　　　　　神奈川県　山田鈍耕

　　拭汗驕陽上高丘，公園歩歩努廻遊。噴泉已熱如温水，絵具涅融画面流。

　　　　　終戦記念日　　　　　　　　　　神奈川県　山田鈍耕

　　原爆終戦焦土哀，荒涼天地全成灰。平和安穏勿軽視，今古追憶感慨催。


　　　　　消夏雑詩　二首　　　　　　　　埼玉県　芋川冬扇　

　　酌酒是仙境，竹林一点蛍。蕉衣三伏熱，忘刻語風鈴。

　　帰路炎雲去，涼風促野情。忘吾丘岳裏，日午只蝉声。

　　　　　夏日舟行　　　　　　　　　　　埼玉県　芋川冬扇　　

　　涼風吹不断，可愛美人歌。酔面無炎暑，江心起夕波。


　　　　李君入横浜大学，行将搬赴校舍，詩以相贈
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　東京都　金　中

　　初見勤工遠客餐，芳櫻万朶亦同觀。都凭火熱攀高志，不畏艱辛渉遠山。
　　怜汝貧于阿富汗，嗟余孤若本拉丹。料知重過閣樓下，相憶清輝泪一潸。
　　　（注）　�@余与李君相識于其打工餐館。
　　　　　　　�A春季嘗共赴上野郊游。�B余与李君住處不遠，皆于東京赤羽。

　　　　　域外三章　　　　　　　　　　　東京都　金　中

　　　　　　（一）

　　耿耿学灯對影單，問誰心事可傾談？郷愁難耐思啼處，聊放光□趙本山。

　　　　　　（二）

　　異域塵牽何擾紛，此心流水若行雲。濃茶細品閑書覧，一曲清歌�ｹ麗君。

　　　　　　（三）

　　冰玉詩魂寥落家，十年求索客天涯。茫茫塵海誰識我？静夜耽讀叔本華。


　　　　　夏　夜　　　　　　　　　　　　　　東京都　大沼春風

　　雷聲躯暑去，揺扇納涼臺。千金一杯酒，提灯映水開。

　　　　　小惑星探査機"隼"　　　　　　東京都　大沼春風

　　青年看宇宙，白髪望閑亭。名"隼"萬劫日，探査小惑星。

　　　　　天球偶成　　　　　　　　　　　　東京都　田村星舟

　　西風嫋嫋濕秋衣，半夜半空霜氣微。却愛天球常有愕，火星寂歴素冰輝。

　　　　　悼梅田眞男氏　　　　　　　　　東京都　田村星舟

　　訃報忽然三伏天，呑聲惆悵魄歸泉。香前一句獨魂断，温敦人生眞可憐。

　　　　　偶　成　　　　　　　　　　　　　　東京都　田村星舟

　　迂途偸暇徑，天際一張弓。山上白雲動，村墟緑葉濛。
　　任風孤蝶羽，惹興古池中。只管分清氣，蓮花為孰紅。


　　　　　寒　蜩　　　　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇

　　夢化寒蜩到古希，声高清唱悔山棲。秋深空谷好逑散，但看紅楓映碧溪。

　　　　　単身赴任　　　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇

　　緑酒壺中尽，青天雁語酸。秋来家信斷，人老客愁殘。

　　　　　客　愁　　　　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇

　　酒郷千里夢，家土兩都間。客枕無眠冷，紗窗月影寒。

　　　　　秋日偶成　二首　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇

　　拂面風痕淺，浮舟秋水深。日高魚影散，人釣晩蝉吟。

　　蝉破詩人夢，日高秋水傍。欲揮吟筆健，已忘醉郷香。


　　　　　秋夜偶成　　　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇

　　晩涼涼似水，風動動吟情。蛩雨懷君切，詩成悔恨生。

　　金氣清於水，銀河流海天。思君詩可賦，人在一灯前。

　　盈月臨茅舎，寒光到枕頭。游魂千里夢，振翅一天秋。

　　茅舎一杯酒，月娥千里秋。禿翁抱壺尽，蛩語使人愁。

　　西風秋一路，北里酒千鍾。人老家財尽，雲歸月色濃。

　　蝶舞西風動，人迷北里招。眼前花貌笑，樓上月光饒。

　　花笑青灯影，人傾緑酒壺。風情醉樓上，蝶夢醒茅廬。

　　蛩声庭戸亂，月色枕頭闌。回憶半生悔，更傾數盞眠。

　　美酒蘇枯骨，妖花縱醉言。對酌盈月下，醒夢吟蛬間。

　　黄髪人頻醉，金秋夢不安。枕頭思故土，子夜倚欄干。

　　酒尽詩人痩，秋深蛩語殘。無言曲肱枕，仰天盈月闌。

　　乱蛩陪醉興，散士作狂吟。桐葉無風落，秋声迎月沈。

　　共渡銀河淡，頻酬緑酒濃。朱唇艷粧處，白首午眠中。

　　壺尽詩人痩，秋深虫語寒。揮毫墨題酒，仰月思無端。

　　盈月半宵臨，殘蛩四壁吟。思君詩述志，傷感涙沾襟。

　　無功官舎夢，乞骨一堂秋。人仰関山月，酒消胸裡愁。


　　　　　歳時詩　　　　　　　　　　　　東京都　池田耕堂

　　　　　隅田川"形代流"（中央区浜離宮沖）

　　梅雨晴間下"大川"，綵船"囃子"響軽煙。
　　神官"修祓"流"形代"，祈念息災斟綺筵。
　　　　　(注)形代；カタシロ。紙の人形　大川；隅田川

　　　　　"入谷鬼子母神朝顔市"（台東区下谷真源寺）

　　寺院周辺異日常，牽牛花市極繁昌。"半纏若衆"估声賑，七夕朝来意気揚。

　　　　　浅草寺四万六千日（台東区浅草）

　　迎夏諸方草市催，観音境内緑成堆。"酸漿"爛熟詩情撼，風鐸飄揺涼気来。
　　腹掛商人挙声勧，軽衫美女下籠回。此時参詣真奇特，四万六千功徳開。

　　　　　下町七夕祭（台東区合羽橋商店街）

　焉知"松谷"與他殊，道具商家占一区。綺節飾絲連市井，臨時露店列街衢。
　管音隊伍昂然進，年少神輿至上娯。商売繁昌宜詣此，"河童"絶方隈。
　　　　（注）河童；河童大明神

　　　　　千鳥淵灯籠流（千代田区三番町）

　日暮納涼巡"御溝"，幾多小艇水心浮。精霊追悼燈籠点，千燭漂流興正幽。


　　　　　　　　　短　詩


　　　　　　　　　　　　　曄歌


　　　　　五　首　　　　　　　　　　　　千葉県　中山逍雀

　　赤蜻蛉。小小呼吸，嬰児聲。

　　蝉脱殻。緊緊抓住，僧侶宅。

　　夏草高。獨断紅塵，防空壕。

　　色香焙。宇治茶館，打砕氷。

　　立橋頭。屋形游船，伴白鴎。


　　　　　立　秋　　　　　　　　　　　　千葉県　田　旭翠

　　独添影，遮断炎塵。此君仁。

　　　　　処　暑　　　　　　　　　　　　千葉県　田　旭翠

　　午夢醒。炎威未散，響檐鈴。

　　　　　白　露　　　　　　　　　　　　千葉県　田　旭翠

　蛩声切，露至秋叢。恋已終。


　　　　　三　首　　　　　　　　　　　　千葉県　高橋香雪
　　涼夜悠。一瞬光芒，星火流。

　　月見花。今宵誰待，茶館紗。

　"幸水梨"。一味秋情，半月帳。


　　　　　白　雨　　　　　　　　　　　　東京都　石塚梨雲

　　満地雲。白雨轟々，草木欣。

　　　　　夕　陽　　　　　　　　　　　　東京都　石塚梨雲

　　歩晩風。誰歌帰路，夕陽紅。


　　　　　六　首　　　　　　　　　　　　東京都　田村星舟

　　玉荷揺。紅光覆水，塵外朝。

　　勝常年。太陽烈烈，半空懸。

　　積翠間。幽鳥呼人，秩父山。

　　白薔薇。花氣侵人，恍忘歸。

　　歸心切。月照高樓，度中秋。

　　夜色深。滿地蛩聲，惜寸陰。


　　　　　六　首　　　　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇

　　有白頭。愁，交紅友，恨金秋。

　　有白頭。愁，傾白酒，醉白秋。

　　頻懷旧。秋，詩人痩，月光透。

　　月如鉤。舟，載紅友，泛金秋。

　　月千秋。酒，招吟叟，夢仙游。

　　酒可口。秋，天悠久，人衰朽。


　　　　　　　　　坤歌


　　　　　　十首　　　　　　　　　　千葉県　中山逍雀

　　雖然小。這箇幸福，不放手。

　　退休后。愛情表白，數増加。

　　新春禧。僅僅祝酒，假元気。

　　在公園。吸入新緑，深呼吸。

　　退休后。剥奪充裕，低利銭。

　　頑固脳。石仏頭上，感冒薬。

　　風偶然。生生流転，花偶然。

　　父暗示。更多麻煩，母暗示。

　　退休后。只只頸肯，象父親。

　　任人評。父的日記，山海情。


　　　　　　　　　偲歌


　　　　　一　首　　　　　　　　　　　　千葉県　中山逍雀

　　沿着踏石，來到情夫。情緒跳動，脚歩聲。


　　　　　獨　酌　二首　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇

　　門無車馬，我有壺觴。眼前壁挂画中娘。

　　三杯美酒，一枕清風。千里游魂，夢二更。


　　　　　　　　　瀛歌


　　　　　春　日　　　　　　　　　　　　　千葉県　秋山北魚

　　春日長。欲銷心火，獨傾觴。花憧蝶翅，翅落秋黄。

　　　　　幻　郷　　　　　　　　　　　　　千葉県　秋山北魚

　　遊幻郷。落花払面，競春芳。麗女皺紋，歌舞如狂。


　　　　　　　　　　　　漢俳


　　　劉徳有先生来日歓迎宴催于新大谷飯店　　千葉県　今田莵庵

　　梅雨起烟甍。春浅拝顔于燕京，江都再会卿。

　　　　八芳園壺中庵四首 　　　 　　　　　千葉県　今田莵庵

　　　　　　（一）

　　俯瞰翠叢筵。魁樓林立隔周辺，却留壺中天。

　　　　　　（二）

　　庭院翠到軒。山茱萸樹留起源，"彦左"遺功恩。
　　（注）彦左＝大久保忠敬，通称大久保彦左衛門，短称"彦左"。
　　徳川家康忠臣。

　　　　　　（三）

　　緑樹覆林泉，鯉魚遊泳潜睡蓮。園主幾変遷。

　　　　　　（四）

　　眼下夏院炎，冷気房間更下簾。乾盞主客湛。

（注）八芳園在東京都港区白金台。此界隈含八芳園・都飯店作庭
　　　　　于大久保忠敬旧邸跡。


　　　　　　哭　人　　　　　　　　　　　神奈川県　山田鈍耕

　　哲人竟不癒。模索英姿荐回頭，蝉聲也無休。

　　癒えざりし英姿偲ぶや蝉時雨


　　　　　　牽牛花　　　　　　　　　　　東京都　石塚梨雲

　　山居起早晨。牽牛花発映塵心，清影竹林隣。

　　　　　　蝉　声　　　　　　　　　　　東京都　石塚梨雲

　　緑蔭只蝉声。午風払面納涼清，幽趣動吟情。

　　　　　　看　雲　　　　　　　　　　　東京都　石塚梨雲

　　盛夏柳辺涼，独領清風仰碧蒼。雲進有誰妨？


　　　　　遣唐使　　　二首　　　　　　　東京都　田村星舟

　　涙眼酌離觴。風浪激處操帆船，千里向唐航。

　　浪吼航路難。唯願還逢故國春，袖涙不知乾。

　　　　　　祭　　　　　　　　　　　　　東京都　田村星舟

　　社前去來風。處處笑聲古木中，秋祭村村子。


　　　　　　詩　迷　　　　　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇

　　書痴読緑陰。納涼春醉花間酒，秋敲月下門。



　　　　　　　　　詞


　　　　　十六字令　三首　　　　　　　　東京都　田村星舟

　　潺。緑樹風風滿耳蝉。郷天遠，回顧好山川。　

　　清。白菊包含一片情。猶難去，嫋嫋午風生。

　　舟。素月流天萬里愁。随秋水，唯聴櫓聲柔。


　　　　　添字漢俳・秋　醉　　　　　　　東京都　石倉鮟鱇

　　游船入醉郷。風渡清秋月滿江，酒超量，夜未央。

　　院落早蛩鳴。月下淺酌詩思生，風韵領，醉吟清。

　　盈月透寒窗。愁聽蛩語醉空觴，游梦想，問秋娘。

　　秋爽晩風輕。白頭傾盞坐深更，仰天鏡，樂浮生。

　　窗月一段明。寒齋獨語醉三更，迷半夢，思五行。

　　浮舟盈月迎。風輕湖上暮山横，細漣靜，晩霞明。

　　傾盞仰天晴。月光皎皎入秋明，浮水映，透骨清。

　　老來無志生。人痩愁聽晩蛩鳴，殘杯冷，盈月明。

　　南窗秋月盈。風人笑把盞堪傾，醉難醒，夢易成。

　　良夜酒獨傾。月下枕肱辞藻生，詩魔醒，夢魂驚。

　　緑酒泛黄菊。杯中典故似游魚，生風趣，導華胥。

　　今世幾心勞? 醉坐寒齋蛩語高，秋風老，月色饒。



　　　　　　　　　　　　　　　　言論筆譚


私と漢俳

　　　　　　　　　　　中国漢俳協会会長　劉徳有
　　　　　　　　　　 　　　　　　　　荻原徳夫訳

　"漢俳"は八十年代初期に中国詩壇に登場した新しい詩体です。漢俳を初めて創られた方は中国仏教協会会長であり且つ著名な詩人あった趙樸初先生です。１９８０年５月、日本の俳人代表団が中国へ来られて中国の詩人と交流をされた時、趙樸初先生は作詩の興とめ処もなく湧きたおこり、日本の俳句の形式に従い、五、七、五の三行書きで下記の中国語俳句を詠まれました：

　　　　　緑陰今雨来
　　　　　山花枝接海花開
　　　　　和風起漢俳

　これがまさに"漢俳"という言葉の起源です。趙樸初先生が漢俳を初めて詠まれてから今日まで已に２０年余りになります。中日文化交流においては言うに及ばず、中国詩歌史上においてももちろん趙樸初先生の功績と功徳共にはかり知れないものがあります。

　漢俳の形式は中国の小令に近似しています。目下、漢俳は字数を除くと今のところ明確にと決った要求はないようです：言葉は文語、口語共に可、脚韻の有無共に可、平仄は問わず、季語も強要はしません。但し、漢俳は日本の俳句と同様に共に簡約された言葉を用い、感情を吐露し、連想を喚起させなければなりません。しかしながら中国と日本は民族的伝統、文化的背景、文化的心理および文学の鑑賞習慣と言語構造等等の面でしょせん同じではありません。従って表現形式も自ずから同じということはありえません。

　私は趙樸初、林林先生などの驥尾に附し漢俳を試みに作った事がありますが、それは相当後のことです。記憶に有るのは１９９４年１月のことです。私が李芒同志をお訪ねした時、彼は私に新聞学院教授、女性書道家、詩人の林岫同志が青島出版社のために≪漢俳首選集≫を編纂しようとしており、当代の漢俳詩人３０人のおよそ３００余首の作品を収録する準備をしているといわれました。李芒同志の推薦で、林岫同志は私に"原稿募集案内"を送ってきました。"原稿募集案内"には≪漢俳首選集≫はわが国詩歌史上初の漢俳集であり、私に近作中から１０首を自選し彼女に送るようにと書いてありました。手紙を頂いてから私は聊か躊躇しました。私の手許には十首や二十首の漢俳はありましたがすべてが習作であり、全く人前に出せないものでした。しかし、"息子のダメダメ嫁も、いつかは姑に会わなければならない"と私は直ちに勇を鼓し、14首を選び李芒同志経由李岫教授に送り、彼女にこの中から１０首選んで欲しいと頼みました。

　２月１８日、林岫同志は選んだ10首を私に送り返し、再度推敲を促しました。彼女は私の原稿の上に色鉛筆で詳細に改修し、特に平仄がしっくりいっていない所は一つ一つ指摘し、併せて評語と注釈、意見を書いてくれました。その上、林岫同志は一通の短い手紙も同封してくれました：

　劉徳有先生：
　ニン好。ご尊名はかねてより伺っておりましたが、遺憾ながらご縁なくお教えいただくことができませんでした。本日、貴大作拝読致しました。構想は素晴らしく、題材は広範囲にわたり、韻は全て正確という印象です。只、平声、仄声の分別は東北人には困難であり、これは理解できます。私は既に初歩的な改修をし、返却しますので、どうぞ再度ご自分で推敲して下さい。文化交流のために遠慮なく添削しましたが、はやとちりして添削ミスなど犯していないよう望んでいます。
　　　それから、ご本人写真及び芸術略歴各一部お送りください。
　　　末筆ながらご健康、ご吉祥をお祈りもうしあげます。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　林岫
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２．１８　深夜

私は林岫同志の改修済み原稿と手紙を読んで、思わず感激してしまい、私はすぐ返信いたしました。

　　林岫先生：
　　　　過日私は李芒同志経由下手な詩を数首送らせて頂きましたところ、ご添削と励ましのお言葉を賜り感謝に堪えません。私本人は今まで漢俳を詠んだことはありませんし、平仄についても全然研究したことはございません、亦基礎も乏しいものです。この度先生はご多忙の中拙作に対し一つ一つ改修してくださり、平仄を整え、私の下手な詩に大いに色を添えて下さいました。私がここから習得したものは非常に大きなものがあります。先生は本当に私の良き師でございます。原稿を受け取り次第本来ならば良き師のところへ自ら赴き感謝申し上げるべきところ、のっぴきならぬ仕事に身動きできず、そうすることも叶わないことどうぞお許し頂きたく宜しくお願い申しあげます。

　　茲許詩稿に写真と略歴各一部同封いたしますので、ご査収賜りたく。今後とも引き続きご指導戴けますようお願い申し上げます。
　　　最後に先生の編集の仕事が順調に進みますよう茲にお祈り申し上げます。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　劉徳有
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　1994年2月21日　

　漢俳の日本語訳は今のところまだ多くはありませんが、それなりの特殊性を持ち合わせています。俳句が17音字で有るのに対し、漢俳は１７の漢字の組み合わせですので、漢俳を日本語に直訳すると冗長さがでてしまうのは間違いありません、これは日本の俳人にするとどうやら詩味がないということになるようです。この事自体が正に漢俳は漢俳、俳句は俳句、両者は同等のものではないということを表明しています。従って翻訳に際して互いに"完全同値"を求めるのは現実的ではありません。私は"近似値"の翻訳が出来たら正に理想的であると考えます。私は漢俳を日本の俳句に翻訳できたらきっと鑑賞に堪えうるものになると考えたことがあります。ある時、北京で日本の俳人との話の中で、私が楽山へ行った時詠んだ漢俳をお見せしました：
　　　　　　　　春遊四川楽山

遍地菜花黄、
　　　　　　邀月持杯沫水傍、
　　　　　　麻婆豆腐香。

日本の著名な俳人牧石剛明はこれを正真正銘の俳句に翻訳しました。果たして非凡なるでした：

　　　　　　麻婆豆腐で酌む沫水の花菜の辺
　私は牧石先生が俳句に翻訳する際し、"黄"、"邀月"、などの文字を省略したことに注目しました。なぜなら、花菜は黄色です、これは常識で、言わずとも自明のことであり、くどくどと言う必要はありません。更に季語の観点からみると、"菜花"と"月"は共に季語で、前者は春を表し、後者は秋を表すので、互いに矛盾し、且つもっと重要なことは季重ねという最も忌むことを犯していることです。幸いなことに、目下のところ漢俳の季語に対する要求は未だ俳句ほどには厳しくはありません。

　漢俳と俳句が完全に同一のものになることは不可能であるにもかかわらず、両者の間には一点相通ずるものがあります。それは両者とも"詩意"と"詩の魂"がなくてはならないということです。両者はもとより詩ですから詩の情緒と美は必ずそなえていなければなりません。若しこれらの特点を具備していなかったら、もうそれは詩ではなくなり、漢俳も俳句も即その命を失ってしまいます。

　詩意、詩の美、詩の情緒、これらは私が生涯追求すべき目標です。
（『漢俳詩人』2004-2号：『俳句・HAIKU・漢俳』からの抜粋）


吟社の窗

◆「漢俳学会」が設立されたことで、世間が「漢俳」を意識し始めたようである。国際俳句交流協会でも、来年５月劉徳有会長はじめ数名の客人を招待することを計画中と聞く。だが、依然として「漢俳」が何か解っている人は少ないし、況や一緒に作ろうという話はまず耳にしない。

◆日本には漢俳の参考資料がないから質問が多くなっている。日本の短詩界に漢俳の情報を提供することは、中国短詩界に密接な関係を築いてきた当吟社の義務であるかも知れない。今回は劉徳有先生の『私と漢俳』を、荻原徳夫さんに訳して頂いた。政府高官である劉氏と、詩人の李芒さんや林岫さんの接点は、読み物としてもなかなか面白い。更にこの中には「漢俳をどう育てるか」「漢俳のあるべき姿」といった問題も描かれていて参考になる。この一文は『漢俳詩人』2004-2号に掲載された『俳句・HAIKU・漢俳』の一部で、この前に『俳句とは何か』『俳句の中の季語の役割』『HAIKUの世界的流行』の三章がある。いずれ又荻原さんの翻訳をお願いしたいと思っている。

◆『秋涼詩縁温暖抄』は、アンソロジー部分と研討会発言録から成るが、殆ど組み上がり、最後の訳文検討を荻原さんにお願いしているところ。荻原さんには献身的なご協力を得た。心より感謝申し上げる。点検終了次第印刷に廻す予定である。中方３５名、日方２１名、それに中国人留学生２名を加えて全部で５８名の作品を収録できた。

◆同書の「研討会発言録」を読むと、中国の短詩詩人たちが、日本の短詩界に接し、知識を吸収し、新たな短詩の切り口を求めようとしていることが良く解る。林岫女士による「日本人が漢詩を学び作るため」のものだった中山四体詩が、中国に渡ってから「少なからぬ中国詩人」によって用いられた実績の紹介（紀鵬氏、李佩雲女士も同様言及）、屠岸氏による芭蕉・一茶の俳句は、一度読むと忘れられないという印象、湯文斌氏による「私たちは日本の詩人に学ばなくてはならない」とする意欲 （李増山氏も同様言及）等々熱っぽい発言が続く。

◆東聖子さんが漢俳学会成立大会について『国文学』九月号（学燈社）に「漢俳の動き」を、また『俳句研究』九月号にも「北京にて漢俳学会の発足」を発表された。

◆董振華さんは、７月２日愛知万博瀬戸会場で開催された「国際俳句詩祭」に参加して、「漢俳の現況」について講演。俳句誌『耕』（主宰加藤耕子）九月号国際俳句詩祭特集に記事が載っている。

◆吉野まやさんが一年の復旦大学留学を終えて帰国された。今月の東京月例会でご挨拶頂く予定である。遅れた就職活動を頑張るとのこと。日中文化交流協会の中野常務理事から、アルバイトでもいいから是非来てほしいとお電話があった。今後のご成功と短詩のご研鑽を共に期待したい。（莵）